作品紹介 「郡浦方面春景」士野精二
収蔵庫から取り出すと、いつもこの絵の明るさにハッとさせられます。様々な諧調の青が美しく、春の陽射しが絵から洩れ出てきそうな作品です。
色彩
細部の色づかいが面白いですね。
爽やかな空には、青だけでなく桃色が混じり、春らしい柔らかさが添えられています。一方で、砂浜は黄色を基調にしながら、黒・緑・水色など意外な組み合わせの色彩がリズムよく配置されており、画面全体が引き締められています。小石の角ばった輪郭線が心地よいリズムを刻みます。
この砂浜部分の色合いにオリエンタルな雰囲気が感じられるからこそ、この絵は、どこにでもある風光明美な海辺ではなく、熊本・三角の海風と空気感を描きだすことに成功しているのでしょう。
構図
作者の士野精二氏はあるとき、「名画には名画たるゆえんがある。共通して素晴らしい構図がある。」と気付かれ、古今東西の名画の構図を研究されました。
本作品にも、その名画に学んだ構図が活かされています。これは、絵を線と点に分けて見ると、分かりやすいかもしれません。
例えば線だけで見ると、この絵は、「水平線」と「雲」が水平方向に伸び、「砂浜」が右下がりのななめ線として画面を横切ります。
パッと見ただけでは、横(=水平)方向の線が強い絵のように見えます。
ここで、点に注目しましょう。
「対岸や山の稜線に打たれた白点」と、色とりどりの「砂浜のなかで目立つ点」とを結べば、縦(=垂直)方向の構図も意識されていたことがわかります。
また画面右下、「波打ち際に見え隠れする小石の黒点」をたどれば、砂浜をかたどる右下がりの線が、いま一度、右上がりに持ち上がってゆくのも分かります。
画面に「広がり」を予感させる効果を期待した、作者の細やかな工夫です。
いかがでしたでしょうか。
色彩と構図から解説してみましたが、
本当のことをいえば、小難しくアレコレ考えずに、
「ああ綺麗な色だなぁ」「春の風が吹いてくるようだなぁ」など、
自由に感じていただくだけで十分です!
色や構図の工夫については、
ふと、どうしてこの絵が綺麗だと感じるのかな?
と気になったときに、探してみてください。
人の手がつくりあげた美しいものには、
――技を磨いた時間・創意工夫・歴史と模倣・情熱などなど――
きっと、たくさんの理由が隠れているはずです。
作者略歴
士野精二氏は、1940年熊本県人吉市生まれ。
熊本大学教育学部美術科を卒業して以後、県内の小学校・中学校・高校等に勤務。
1993年大津高等学校教諭を退職。
同年秋から1999年夏まで、美術研修のためスペイン南部アンダルシア地方の町セビリアに滞在。
約6年に及ぶセビリヤ滞在期間中、毎年夏と冬に一時帰国して、個展を開催。
2000年以降、毎年の個展をアートスペース大宝堂にて開催。
2006年からはそれを新年恒例として続けている。
特定の美術団体に属さず、古今東西の名画に学ぶ。
基礎情報
作者 : 士野精二
題名 : 郡浦方面春景
制作年: 2001年
画材 : 油彩・キャンバス
寸法 : 60.8×72.8cm