作品紹介 「シテ島の朝」西村義人

07-西村義人

 西村義人の絵は、さざめくような光に満ちています。たくさんの色を重ねながらも、静かな調和が保たれ、そっと日常の風景を切り取ってきたかのようです。
 今回は、なかでも人気の作品「シテ島の朝」と、西村義人の人生についてご紹介します。

絵の題材:シテ島とは

 シテ島とは、パリの中心部に位置するセーヌ河の中州のこと。2時間もあれば十分に見て回れる小さな島ですが、実はパリ市のなかでも特に古い中世建築が残る観光地で、「パリ発祥の地」と呼ばれることもあるほど!マリーアントワネットが幽閉されたコンシェルジュリや、ノートルダム大聖堂なども、この小さなシテ島の中にあります。
 退職後フランスに滞在した西村義人は、きっとここで、パリジャンに混じってイーゼルを立てていたに違いありません。パリの洒脱な雰囲気がよくあらわされています。

 もう一度、絵をご覧ください。アーチを描く石橋はポン・ヌフ。シテ島″最古″の橋です。中央にひときわ高くそびえる尖塔はサントシャペル教会。パリ″最古″のステンドグラスで知られています。ここは、パリ″最古″の地区にあるシテ島のいいところを、一手に眺められるビューポイントなのです。

絵の魅力:優しいまなざし

 この絵の素敵なところは、パリの厳かな「歴史」を描くだけでなく、そこへ暮らす人々の「静かな日常」をも感じさせるところです。

 タイトルを思い出しながら絵をながめてみてください。空や川面には”朝”らしい清新な空気が流れ、ひとつひとつの窓や石造りの建物の内部には、一日がはじまる予感に満ちた幽かなざわめきが感じ取れます。
 単なる観光スポットを描くのではなく、そこで営まれるささやかな暮らしにまで目を向ける、そのために朝の静かな時間帯を選ぶ―――ここに、西村義人の優しいまなざしを思わずにはいられません。

 ちなみにシテ島の位置から考えると、朝陽は左側から差し込むはずなのですが、この絵では光が逆向きです。この場所ではスケッチだけを済ませ、あとからアトリエで再構成したのかもしれません。
 シテ島の美しさに、ついつい足が散歩に向かってしまったのでしょうか…?スケッチブックには、色々な方向から繰り返しこの島を描いた跡が残っています。

作品の舞台裏:もうひとつの優しいまなざし

 地方都市ではほとんどの画家がそうであったように、西村もまた、教師をしながら画家として活動しました。そこには、二足のわらじならではの葛藤がつきものです。
 教師としては、指導のために教科書どおりの技法を磨かざるをえない
 画家としては、もっと斬新な画風に挑戦して 独自の画境を切り拓きたい 
 ――夢と仕事との間に折り合いをつけるのは、言葉で言うほど簡単ではありません。どちらかを投げ出すことができれば、どんなに楽でしょう。
 しかし西村は、日展で入選を重ねるかたわら、後進の指導にも真正面から向き合いました。その頃の心境を語った言葉が、当館に残されており、真摯に悩み、考え抜いた絵画観が伝わってきます。

 さて、絵を教えることに一所懸命取組んだのち、退職を迎えると西村はフランスに渡り、2年ほど絵の修業をします。各地をスケッチするほか、ルーブル美術館で歴代名画の模写に励んだようです。

 本作品はフランス滞在期――つまり、ようやく自分の絵のことだけを考えられる時間が手に入ったときに、描かれたものです。
 地域の暮らしをみつめる優しいまなざしに、絵を志す若者たちへ真摯に手を差し伸べてきた西村の、誠実で優しい人柄が想起されます。

作者略歴

1910 熊本県宇土郡不知火村(現 宇城市不知火町)生まれ
1931 東京美術学校(現 東京芸術大学)卒業

以後、兵庫県立伊丹中学校をはじめとして、戦時中は朝鮮に渡り公立釜中学校にて、戦後は帰熊し、熊本市西山中学校・白川中学校・帯山中学校・錦が丘中学校にて、教諭を歴任。大戦で中断していた絵画制作を再開したのは1954年頃のことで、白川中学校時代にあたる。

1957 日展初入選 以後8回入選
1958 熊日総合美術展 社長賞「憩える」
1959 セルパンで定例の新春個展をはじめる
1963 熊日総合美術展 招待作家となる
1968 錦が丘中学校を退職 8月渡仏

この間、パリ公募展に入選する。
スペインへスケッチ旅行にゆく。

1969 11月帰国
1970 セルパンでの新春個展を再開 日展への出品をやめる
1972 三樹社(清原武則・西山進・西村義人)を結成 第1回展を開催
       東京での個展では、福田赳夫元首相や渡哲也などが作品を購入
1973 三樹社第2回展(熊日画廊)
1980 古希記念展(アートスペース大宝堂)
1982 11月死去(72歳)

2010 生誕100年記念 西村義人展(宇城市不知火美術館)

基礎情報

作者 : 西村義人
題名 : シテ島の朝
制作年: 1969
寸法 : 97.0×130.3
材質 : 
油彩・キャンバス